VCファンドは儲かるか [米国編]

今回は米国のVCファンドのパフォーマンスを見てみます。

Chronograph社の記事によると、過去20年余りの米国VCファンドのパフォーマンスの平均値は悪くないようです。

出典: https://www.chronograph.pe/is-dpi-the-new-irr-for-vc-fund-allocators/

上記グラフの青緑の線はTVPI(Total Value to Paid-In Capital, 評価総額/払込出資金倍率)の推移です。横軸はファンドのVintage Year、つまりファンドを設立年ごとに仕分けて、各年のファンド群のパフォーマンスを計算しています。2011年~2014年頃のTVPIは他の年にも増して良好なパフォーマンスとなったようです。
しかしこのグラフを正しく理解するには、TVPIとは何かということをきちんと理解する必要がありそうです。TVPIには未実現の価値が含まれていて、これが客観的に正当なものかは微妙かも知れない、ということです。
VCファンドが投資によって取得したスタートアップ企業の株式は、回収が実現して現金化されるまでの間、バランスシート状に株式として計上されます。こうした株式は「未公開株式」、つまり証券取引所などで取引されているわけではないため市場価格が存在しない株式です。そうした未公開株式の価値をどのように時価評価するかが問題になります。通常は、ファンドの運営者であるGPが、監査法人などと相談しながらファンド内の株式について「適正な価格(Fair Value)」をつけ、それを元にファンド全体の価値はこうですとしたのがTVPIになります。「適正な価格」には現金化されていない「未実現損益」が含まれるため、本当にその価値があるか曖昧さが残ります。VCファンドにLP出資される方は、この「適正な価格」にGPの恣意が入る余地がないか、きちんと見ていくべきでしょう。

一方、上記グラフの黒い線はDPI(Distributions to Paid-In Capital, 実現倍率)を表します。こちらは現金で分配された金額を元に算定され、GPの評価によるブレがない「実現損益」を表し、信頼度の高い数字です。
このDPIを見ていて気が付くのは

  1. 2014年ビンテージまでのDPIは悪くない。2011年ビンテージを見ると、この年はリーマンショック後遺症で景気も良くない時期だったにもかかわらずDPIが2倍超えとなっており、非常に成績のいい年でした。日本でもこの年に設立されたVCファンドはとても好成績だったと聞いています。スタートアップ投資は株式市場が冷え込んでいる時期に始めるのがいいと言えそうです(投資というのは常にそういうものかもしれません)。また、ドットコムバブルの絶頂期だった2000年ビンテージですら、DPIは約1.0x、出資額と同程度の回収ができています。これはバブル崩壊の荒波の中でGPの皆様が奮闘した成果と言えるでしょうし、バブルが崩壊して市場が底辺をさまよった2002-2003年頃に頑張って投資してパフォーマンスを改善したという見方もできそうです。
  2. 2015-2019年ビンテージについては注視が必要でしょう。この統計は2024年であり、2015-2019年ビンテージについては分配が出てきて然るべき時期に来ているのですが、いずれもDPIが低い水準にとどまっているように見えます。EXITの実現が容易ではないのかも知れません。この辺の評価は時間をかけて見ていく必要がありそうです。
  3. 総じて「TVPI>DPI」です。TVPI(未実現損益)はDPI(実現損益)よりも高めに設定される傾向があるようで、その差は2005年頃からだんだん拡大傾向です。殊に2009-2011年頃のビンテージを見るとその差はかなり大きいようですね(2012年以降については回収が完了していない可能性が高いため除外します)。これらビンテージのGPによる自社ファンドの時価評価は過大だったということになりそうです。LP出資される方は、こういうことが起こりえることを肝に銘じておきましょう。

なお、ここまでの話はNVCA情報(National Venture Capital Association, 全米ベンチャーキャピタル協会)の情報を元にChronograph社が作ったグラフによるマクロな分析であり、個々のVCファンドについては儲かることもあれば儲からないこともある、ということを添えておきます。

  • TVPI: Total Value to Paid-In Capital 評価総額/払込出資金倍率
  • DPI: Distributions to Paid-In Capital 実現倍率
  • RVPI: Residual Value to Paid-In Capital 未実現倍率
  • TVPI = DPI + RVPI